先日評価を行った「築2年・RC造3階建アパート」の事例をもとに、評価方針や実務上の留意点を整理しました。投資用不動産の評価におけるチェックリストとしてご活用ください。
1. 対象不動産の確認・調査
まずは基本情報の照合がスタートラインです。
- 賃貸面積の精査:レントロール、契約書、図面(竣工図)の3点照合を行い、整合性を確認します。
- 境界の確認:売買契約書等で道路境界確定の有無をチェックします。
2. 地域分析・市場分析の視点
近隣エリアの特性を掴み、将来性を予測します。
- 競合環境:相続税対策等による新築供給の増加傾向や、土地代回収を度外視した低廉な賃料設定の有無を確認します。
- 用途の競合:店舗・事務所需要との比較や、将来的な用途転換の可能性を検討します。
- 地価変動:時点修正率は、地域全体の標準的な変動と、個別案件特有の事情を区別して査定します。
3. 個別分析(物件の強み・弱み)
本物件の「市場競争力」を具体的に評価します。
- スペック評価:築浅RC造、駅徒歩5分という好条件に加え、駐車場充足率約155%(9戸に対し14台)という優位性を評価します。
- 最有効使用:容積率未消化ではありますが、現状の「中層共同住宅」としての継続利用が最善と判定します。
- 需要者の想定:県内の収益物件を扱う法人投資家をメインの買い手として想定します。
4. 鑑定評価の手法と留意点
【原価法】積算価格の査定
- 建築費:請負契約書をベースに、統計資料やヒアリングを加えて妥当性を検証します。
- 付帯費用:開発リスクやデベロッパー利益等の積み上げ漏れがないよう注意します。
- 土地価格:地方物件において、容積率未消化が減価要因となるかを慎重に判断します。
【収益還元法】収益価格の査定(※今回はこちらを重視)
- 賃料査定:共益費が実質的に賃料へ充当されていないか、内訳を分析します。
- 費用予測:新築特例(固定資産税の軽減)終了後の増額分をあらかじめ見込みます。
- 利回り:J-REITや近隣のオーナーチェンジ物件(NCF利回り換算後)を参考に決定します。
- 空室・修繕:過年度レントロールや類似物件の履歴から、長期的な稼働率と修繕費を見積もります。
【取引事例比較法】
- 今回は適切な複合不動産の事例が不足していたため適用を見送りましたが、市場の利回り感や相場観の検証材料として活用します。
5. 結論評価額の決定:典型的な需要者(投資家)の意思決定基準に基づき、「収益価格」を標準として決定しました。積算価格は参考にとどめます。
あおぎり不動産鑑定
分譲マンションの査定を行った際の備忘録を掲載いたします。どのような査定を行っているのかの指針になればと思い掲載しております。
【対象不動産】駅徒歩4分、地上14階建マンション4階部分 88㎡3LDK
【同一需給圏】典型的な需要者である個人のエンドユーザーが、長野県の中心市街地へ通勤可能な地理的範囲
【近隣地域】駅に近く、中心市街地までも自転車通勤も可能な交通利便性に優れ、スーパーや小学校が近接する生活利便性も高い、高層分譲マンションが建ち並ぶ地域
【将来動向】駅への近接性や利便性の高さから低層店舗等が解体され、中高層マンションへの建替えが緩やかに進行中
【典型的な需要者】自己の居住用として使用することを目的とする個人エンドユーザー
【市場分析】
・新築マンションは5,000〜6,000万円(単価60〜70万円/㎡)
・中古マンションは築10年で3,000〜4,000万円(単価40万円前後/㎡)
・中古マンションは築30年前後で1,000〜2,000万円
・近年は供給が増加傾向にあり、需要者が中古から新築へ移行する傾向
・中心の供給専有面積は以前の85㎡からやや狭めの75㎡に変化
【代替競争関係にある不動産と比べた優劣】
・駅から徒歩約4分の交通利便性
・南向き角住戸のため眺望、日照、通風に優れる
・幹線道路の騒音影響は4階で軽微
・平成27年築で専有面積約88㎡、御影石使用など品等も優れる
総合的に代替競争関係にある不動産よりやや優位な競争力を持つと判断
【最有効使用】対象である自用の区分所有建物とその敷地は現況のまま継続使用
【留意点】
・マンションの修繕費積立金の金額
将来予想される外装塗装の工事見積と修繕費積立金の累積積立金額との比較
修繕費積立金の現状の水準と、国交庁のガイドラインの金額の比較
・マンション価格に影響を与える主な価格形成要因の把握
→築年数、最寄駅からの距離、小学校までの距離等の住環境
・共益費の取り扱い 共込家賃か否か
・管理規則の確認 管理費、修繕費積立金、計画、累計積立額、特約事項の有無、規約敷地や専有使用権の確認
・管理費滞納の有無
【評価手法】原価法、取引事例比較法、及び収益還元法の三手法を適用し、これら試算価格の検討
- 原価法
- 標準住戸の設定3Fの中部屋 階層別格差と位置別格差の把握
- 建築費単価の査定
マンションの再調達原価と新規売り出し中のマンションの価格との整合性
- 更地価格の査定 開発事業者目線での格差比較
一種単価、単価、容積率、駅距離、敷地規模
- 付帯費用の査定 開発業者の財務諸表 不動産会社への聴取
- 取引事例比較法
- 対象不動産の存するマンションの成約事例や、近隣の同施工会社のマンション取引事例の分析
- 収益還元法
- 対象不動産の存するマンションの成約事例や、近隣の同施工会社のマンション賃貸事例の分析
- 賃貸事例間の時点修正率の査定 CPI,賃料INDEX,地価変動率との相関関係
- 賃貸事例間の比較における建物の構造による賃料格差
- 分譲マンションのオーナーチェンジ利回りと自用の利回りの差の検討
- 還元利回りの査定
実際の成約事例(特にオーナーチェンジ)を基礎にしてNCF利回りを査定
規模、駅距離、グレード感による利回り格差の把握
- 資本的支出の金額(大規模修繕費)の査定
・修繕費積立金の予測
- 上記大規模修繕のほか、専有部分のクロスの張替えやエアコンの交換費用の査定
- 分譲マンションの空室率の把握 平均入居期間、募集期間の査定
- 一棟利回りと一戸利回りの格差の有無の検討
【鑑定評価額の決定】
・典型的な需要者が自己居住用のファミリー層
需要者が重視する価格形成要因を適切に反映している比準価格を標準
積算価格と収益価格を参考に留め、鑑定評価額を決定しました。
新規家賃の査定を行った際の備忘録を掲載いたします。どのような査定を行っているのかの指針になればと思い掲載しております。
1.対象不動産の概要と需要者設定
- 対象不動産の特徴:築13年、間取り1LDK、広さ40.5㎡(LDK12畳、洋室6畳)。
- 需要者:共働きの夫婦、カップル、高所得の単身者など。
- 同一需給圏の範囲:上記需要者が中心市街地へ通勤可能な範囲と設定。
- 取引事例は近隣地域または同一需給圏内の類似地域から選択。
- 価格の種類:支払賃料。依頼目的は新規の賃貸借の参考とする。
2.市場分析と賃料査定の留意事項
- 市場分析結果
- 共同住宅敷地(300㎡以上)の土地価格帯:80,000円/㎡~160,000円/㎡。
- 駅徒歩15分以内では110,000円/㎡~160,000円/㎡が中心。
- アパートの賃料価格帯:新築1LDKで2,100円/㎡~2,600円/㎡。築10年前後で1,800円/㎡~2,300円/㎡。
- 留意点
- 共益費:共益費の有無で敷金や仲介手数料に影響。込家賃の場合、共用部分の維持管理費等を費用計上する必要がある。
- 面積表示:契約書記載の面積は通常壁芯面積を採用。広告目的や事例との比較のため。
- 契約書の確認:月額支払賃料、敷金礼金、契約期間、特約事項(ペット、告知義務など)、契約形式などを確認。
- 維持管理の状態:管理人の常駐・巡回の別、大規模修繕計画、管理規則の有無を確認。
3.評価方針と適用手法
- 評価方針:積算法および賃貸事例比較法の2手法を適用する。
- 収益分析法は、対象が賃貸用不動産のため適用しない。
(1)積算法
- 基礎価格の査定:更地価格(取引事例比較法、開発法で求める)に契約減価の有無を考慮して求める。
- 期待利回り:投資用共同住宅の事例や不動産投資家調査の取引利回りを参考に査定する。
- NOI、NCF利回り、粗利回りに留意する。
- 必要諸経費の計上:維持管理費、公租公課、損害保険料、空室等損失。
- 共益費収入で賄われる共用部分の維持管理費は計上しない。
- 減価償却費は、取引事例との平仄を合わせるため計上しない。
- 損害保険料は1室の損害保険料を配分率により査定する。
(2)賃貸事例比較法
- 格差率の査定項目
- 構造による格差(防音に対する需要者意識の反映度)。
- 建物の位置による格差(角住戸、中間住戸)。
- 築年数による格差(築5年と築10年などの賃料格差)。
- 接面街路の格差:土地と異なり、賃料の意思決定に与える影響が少ないため、考慮しないことが多い。
4.評価賃料の決定
- 評価賃料は、積算賃料と比準賃料の重みづけを判断し決定する。
- 判断基準:典型的な需要者が重視する価格形成要因が各手法の結果に十分に反映されているかどうかを検討する。
上が、新規賃料、いわゆるアパート等の家賃を求める際の手順や評価にあたり留意している点の概略をまとめさせていただきました。
対象不動産によって、需要者や価格動向、慣行は異なりますので、不動産鑑定士は案件ごとにこのような詳細な分析や査定を専門的に行っております。
令和7年度の不動産鑑定士試験の合格者が発表されました。
不動産鑑定士の論文式試験は、例年8月に実施されており、その合格状況は以下の通りでございます。
昨年度の試験では、981名の方が受験された結果、173名が合格し、合格率は17.6%でした。私が合格した令和6年度は、847名の方が受験され、147名が合格されており、合格率は17.3%程度でございました。
合格者数自体は昨年度から26名増価しておりますが、17%台という合格率は安定しており、努力が結果に結びつきやすい試験と言えます。
また、試験全体の難易度を把握するため、短答式試験(一次試験)の結果も見てみましょう。受験者2,144名のうち、779名が合格し、その合格率は36.3%です。
一次試験と二次試験を合わせた最終合格率は、36.3% × 17.6% = 6.4%となり、この数字は、不動産鑑定士試験が非常に価値ある難関資格であることを示しています。
弁護士や公認会計士といった他の士業と比較して科目数は多いものの、一年間しっかりと集中的に勉強すれば、十分に合格を勝ち取れる資格だと感じております。そして、合格後に得られる社会的地位やキャリア上のメリットは、弁護士並みに大きいと確信しておりますので、ぜひ多くの方に挑戦していただきたいと考えております。
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